はじめに
ここでは、AI医療機器を開発する際のプロセスについて簡単に記載しております。AI医療機器の開発においては、データ収集・解析を繰り返し行いながら精度を高めていく必要があるため、アジャイル開発を行う必要がある。また国内では医療機器としての承認実績はまだまだ多くないため、承認のために長い時間が必要となる可能性がある。
そのため、通常のソフトウェア医療機器開発よりも長期化する可能性があることに留意する必要がある。また、QMS対応など、医療機器として当然管理する事項は記載を割愛しています。
開発プロセスの流れ
![](https://kukuru99ru.com/wp-content/uploads/2022/09/image-19-1024x505.png)
開発プロセスの流れとしては上記のようになる。
大きく分けて、以下4つのステージに分類できる。
①企画~PoC開発:実現可能性・ビジネス性を調査する。
②商用設計~プロトコール設計:商用(販売)医療機器として耐えうる設計を行う。
③商用開発:設計に従い要求精度等を達成できるように開発を進める
④治験~販売:開発したものを治験にかけ、薬事承認・販売を行う。
次からそれぞれのフェーズでやることを簡単に記載する。
①企画~PoC開発
![](https://kukuru99ru.com/wp-content/uploads/2022/09/image-20-1024x514.png)
まずは、企画を行い製品コンセプトを固めていきます。医師や医療関係者からVoC(Voice of Customer)を集めたり、内外分析を行い、製品コンセプトを固めていきます。これは他の製品開発と同様のプロセスとなります。
製品コンセプトが固まったら、これの実現可能性を調査します。多くの場合において、AIが学習するデータは医療機関が保有していることが多い。そのため、医療機関と調整し必要な契約・IRB(倫理審査委員会)の許可を取り、データ収集を行う必要がある。
また、AI医療機器における利用シーンは、”医師・医療従事者の負担を下げる”・”医師・医療従事者の気づきを容易にする”、といった、医師・医療従事者の関与があるものが多い。そのため、作成したAIの精度検証や、表現方法についてもフィードバックをもらえるように、調整・契約しておくことが望ましい。
AIが解析するのは、画像・動画データや何らかの検査装置から得られた数値データであることが多い。特に画像データはモダリティの違いが現れる可能性もあるため、初期時点では施設数を絞って検証を行い、結果が出そうであれば多施設に展開していくことが好ましい。
PoC検証を行い、十分な価値があることが判明したら商用システムの設計工程へと進んでいきます。
②商用設計
![](https://kukuru99ru.com/wp-content/uploads/2022/09/image-21-1024x504.png)
商用設計からは、薬事チームを巻き込んだ動きが必要となる。社内薬事チームや、PMDAなどの機関と連携を行い、商用システムとして求められるAI精度水準や、確認事項を詰めておく必要がある。
PMDAと開発前相談などの各種面談をするにあたっては、以下の事項を合意できるように進めていくことが好ましい。
- 医療・医療機器としての存在意義
- 検証方法
- データ収集 ・バリデーション方法
- データ取得時のパラメータ
- アノテーション及び、紐づけした臨床データの種類・内容
- 臨床データ以外の利用の有無(事前学習など)
- データ数、画像サイズ、撮像条件など
- 臨床データの判断を行った医師、委員会など
- 臨床データ以外のデータを利用した場合、これを判断した責任者
- 学習データと検証データの取扱い
※AIエンジニアには自明であるが、学習と検証のデータは同一のものを利用してはならない。
医用画像診断支援システム(レントゲン・CTなどの画像の診断補助装置など)は、開発ガイドラインが存在するため、目を通していただきたい。
医用画像診断支援システム(人工知能技術を利用するものを含む)開発ガイドライン2019(手引き)
特に医用画像診断支援システムを作成する際は、ゴールド・スタンダードの考えが重要であるので、以下も参照していただきたい。
③商用開発
![](https://kukuru99ru.com/wp-content/uploads/2022/09/image-22-1024x495.png)
設計工程にて決定した精度目標などを達成できるように改めて、データ収集・開発を進めていきます。ここからは基本的に粛々と開発を行っていきます。AI医療機器の場合は、莫大なデータ数や、アノテーション作成が必要となるため、根気のいる作業となることも多いです。ロバスト性を高めるため多拠点のデータを収集しながら開発を進めていきます。
④治験~販売
![](https://kukuru99ru.com/wp-content/uploads/2022/09/image-24-1024x500.png)
商用システムの開発が完了したのちは、治験を行い精度を確認し、その後薬事承認・販売と進んでいきます。
医療機器の認証・承認に必要となる期間
本来この工程で決めるべきものではなく、開発前相談時に決定しておくべきものであるが、医療機器認定に関し簡単に記載しておきます。
![](https://kukuru99ru.com/wp-content/uploads/2022/09/image-25.png)
医療機器認定は上記の通り、認証 と 承認 に分かれます。認証と承認の分類はクラスの他、認証機関が策定する「認証基準」への適合性を確認することにより決定される。
申請タイミングなどにより前後するが、認証・承認取得にかかる期間の目安は以下の通り
- 申請準備~認証取得: 9か月程度
- 申請準備~承認取得: 2-3年程度
ビジネスとしては非常に長いリードタイムを求められることとなる。そのため、まずは認証取得を検討することが望ましい。また、本リードタイムはビジネス企画の段階においても重要である。2-3年承認にリードタイムが必要ということは、商用として世に出てくるものは2-3年後ということになる。つまり、現時点で先進的で他の追随を許さない企画を出したとしても、検証段階で承認が出る可能性もある。プロジェクト進行時は、このことを念頭に置きながら常にマーケティングを行いながら、検討を進める必要がある。(企画段階で十分なマーケティング活動を行っていれば、どこかで他社の動向は耳にするものであるが。。。)
以上が、ソフトウェア(AI)医療機器の開発の大まかな流れとなる。ITプロジェクトマネージャであれば、一般的なPoC・商用化のアジャイル開発と大きな差はないように感じると思います。
医療機器開発を行うためには、このほかにQMS体制や、3省2ガイドラインなど遵守すべき事項がいくつかある。しかし、これらも”丁寧なIT開発”とそう大きな相違はないため、医療システムであるからと言って、過剰に心配する必要はないと考えます。
コメント